出会いを運ぶ

「尚子さんの声は、空気になじむ」って言われます。大きな茶会だと「聞こえません」と言われることも。声が小さいんです、私。大きな声というのは、難しいなあ。。。20歳からしばらく保育士をしていたのですが、自分では声を張っているつもりなのに、子供たちが全然振り向いてくれないんです。おかしいですよね。でも、この声だから集中できるというお客さまや、うとうと眠ってしまうお客さまもいらして。お茶を飲むと血行がよくなるので、リラックスしてくれていると思うと、声の小ささもいいのかもしれないと思っています。

茶会のお客さまに伺うのは、お名前とメールアドレス、電話番号だけ。自分からお話になる以外は、年齢も職業も住所も家族構成も、個人的なことは一切聞きません。知る必要がないと思っています。だって皆さん、日常を置いて、いらっしゃるのですから。お菓子を作ってくださる薫子さんも、茶会のお客さまだったんですよ。1年もの間、ご自分が何をなさっているかをお話しになることもなくて、一緒にいらした方が「この方はお菓子を作っていらっしゃるのよ」と教えてくださったんです。家族ぐるみでおつき合いをするお客さまも、いつも黙ってお茶を飲み、黙ってお帰りになるお客さまも。お互いに人生がどんどん変わっていく様を見て、一緒に年を重ねながら、時折おいしいお茶を楽しむ……これ以上うれしいことはないですね。

一度だけ「お住まいを伺っておけばよかった」と後悔したのは、2016年の熊本地震の時でした。皆さん、どうなさったかしらと思うばかりで……。「しばらくお休みします」とだけメールをして、その後も、こちらからは茶会のご案内メールをすることも控えていました。再開してからは、茶会に向き合う私自身もすごく変わったと思います。「おいしい」「楽しい」という茶会から、お客さまと「出会う」ことの意味が深くなったんです。茶会の一回一回が、私にとってもっともっと大切なものになってきています。