COLUMN

Tea Trip in China〜烏龍茶のふるさとを訪ねて〜出野尚子

潮州市から北東に約60キロ、「鳳凰鎮烏崠山」(ホウオウチンウートンサン)茶区からの眺め。この山を始め1000メートル級の峰々が連なるさまが、鳳凰が羽を広げたかのようであることから、鳳凰連山と呼ばれています。

烏龍茶のふるさとを訪ねて

烏龍茶のふるさとである広東省東部の潮州市へは、香港の西九龍駅から高速鉄道に揺られること2時間半で到着します。潮州市は国家歴史文化名城に指定され、中国の歴史にその名を刻んだ古い都市です。私はこの地に育つ、鳳凰單欉という烏龍茶を作る人々や、その茶畑、そして100年以上の古樹が生きている、烏崠山(ウートンサン)へいくことにしました。
單欉とは一本の木を指したことばです。鳳凰單欉とはつまり、たった一本の木から摘み取った葉だけで製茶し、それ以外の茶葉は1枚たりとも混ぜないという、なんとも贅沢な烏龍茶なのです*。しかも、チャノキごとに製茶法が変えられているために、香りや味わいが異なるといいます。その数は80種を越えるそう。どこまでもお茶に貪欲な中国って、すごいです。
*近年では品質の均一化や安定供給ために、茶畑産の烏龍茶もあります。その場合は單欉という言葉は当てはまりません。

潮州市のある広東省東部は、烏龍茶のふるさとのひとつと言われますが、日本人にも馴染みの深い鉄観音茶(てっかんのんちゃ)や、独特の甘さと花の香りの武夷岩茶(ぶいがんちゃ)は、福建省北部の烏龍茶です。凍頂烏龍茶(とうちょううーろんちゃ)や、名前が素敵な東方美人茶(とうほうびじんちゃ)は、台湾の烏龍茶。これらもふるさとに名前を連ねる美味しいお茶たちです。烏龍茶ビギナーの方におすすめするのは、台湾の「高山烏龍茶」です。渋みや苦味がなく、爽やかな花の香りが楽しめ、食事にもおやつにも相性のいいお茶です。ぜひ試してみてください。
ちなみに、烏龍茶は中国茶の分類上で「青茶」(チンチャ)と呼ばれ、半発酵のお茶の総称です。発酵度がもっとも低いのが緑茶で、最も高く発酵させたものが紅茶に分類され、発酵のすすみ具合で味や香りが変化します。

自然のままが美味しさの秘訣

写真は烏崠山(ウートンサン)茶区に育つ古樹。この木で樹齢およそ300年。鳳凰單欉は中国最古の烏龍茶と言われるだけあって、その歴史は明や宋の時代にまでさかのぼるそうで、樹齢900年を数えるチャノキもあるそうです。また、ここは岩山なので、お茶の木は露出した岩と岩の間を縫うように植えられていました。こんな岩質にどうやって根をはるのだろうかと心配になりますが、厳しい生育環境だからこそ、負けじと根を生やすことで、奥行きや厚みのある味になるのだと、茶農家さんが話してくれました。寒暖の差や明け方に立ちこめる霧、日中の豊富な陽射しなど、美味しいお茶の生育に欠かせない条件がすべて揃っていました。

ここ烏崠山(ウートンサン)では、日本の茶園と違い、お茶の木がランダムに生えています。チャノキの背丈も高く野生のまま放置されています。この自然のままに育てる栽培方法こそが、美味しさの秘訣なのです。茶葉1枚にふくまれるミネラル分が多く、こくや香りが際立つお茶になるそうです。お茶の命である喉越しや香りを絶やさないために、自然のままにこだわりつづける茶農家さんのプライドに心から敬服です。

1株ごとに異なる味わい

チャノキごとに異なる製茶法が、香りや味わいの違いとなって現れるのが鳳凰單欉です。その80種類におよぶといわれる種類のいくつかをご紹介すれば、キンモクセイの甘くて優しい香りの「桂花香」(けいかこう)、濃厚な甘みと趣のある爽やかな香りの「蜜欄香」(みつらんこう)、そして清らかな姜花の香りが溢れる「姜花香」(しょうがこう)など、どれも個性あふれる烏龍茶ばかりです。
私もこの旅で、いくつもの鳳凰單欉に出会いました。「鴨屎香」(やしこう)は花のような清らかな香り、「肉桂香」(にっけいこう)はどっしりとしていて、身体があたたまる感じ。どのお茶も何煎か楽しむうちに、味や香りがどんどん変化していき、まるで万華鏡のようでした。
烏龍茶のふるさとを訪ねる旅は、私にたくさんの感激と思い出を残してくれました。茶会を催すようになり、中国茶を学びはじめて16年が経ちましたが、中国茶の奥深さは底知れず、勉強不足はまだまだつづきそうです。次は福建省武夷山(ぶいさん)で作られる岩茶(がんちゃ)や、広西ソウ族自治区へ「茉莉花茶」(ジャスミンちゃ)の時期に行ってみたい。そんなお茶の旅を空想しつつ、大陸の地図を眺めています。

2018年11月6日 潮州市にて