TALK SERIES 03松本千登世さん(美容エディター) ×陣内宏行(三省製薬 代表取締役社長)
松本千登世さんに聞く、
美のプロファイリング
肌は、その人の生き方を語っているという。どんな暮らしをしているのか、どんな考え方をしているのか。松本さんの審美眼は、鋭くも、いつも女性への温かなエールに満ちている。そんな松本さんだからこそ伝えられる「美しさのエッセンス」を、三省製薬代表の陣内宏行が聞きました。
今回のゲスト
松本千登世さん美容エディター

1964年生まれ。美容エディター、ライター。航空会社の客室乗務員、広告代理店、出版社を経てフリーに。多くの女性誌に、連載をもつ。とくに、独自の審美眼を通して語られるエッセイに定評があり、絶大な人気がある。著書に『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』『もう一度 大人磨き』(共に講談社)などがある。

ディテール VS 印象

陣内
初めてお目にかかったのは、2年前でしたね。弊社の開発担当者との対談をお願いしました。
松本さん
はい。九州の本社に伺う道すがら、車の中でずっとお話をしていたことを覚えています。いい意味で社長然としていない、軽やかな方という印象でした。
陣内
印象的だったのは、松本さんが向こうから歩いていらっしゃるときにまとっていた空気感。とてもエレガントで、思い浮かんできたのが「佇まい」という言葉でした。
松本さん
よかったです。ディテールが注目されなくて(笑)。
陣内
「佇まい」って、空間も含めたその人のイメージなんですよね。
松本さん
そうだと思います。美容を日々仕事にしていると、シワはあるよりないほうがいいとか、肌は暗いより明るい方がいいとか、どんどんディテールにこだわってしまいがちなんですが、心の底では、それってどうなのだろうと思っていたんです。
陣内
それは、どういうことですか?
松本さん
たとえば、ある人を「きれい」と思うのは、肌が白いからではないし、シワが1本もないからでもないですよね。それよりも「会って気持ちがいい」とか「感じがよい」とか、そういう人が心に残りませんか?
陣内
たしかに、そうです。
松本さん
もしシワがあったとしても、笑顔が魅力的なら、別れた後のイメージの中では、その人の顔からシワは消えているんです。だから私は「ディテールを気にしなくてもいいよ」派と言っているんです(笑)。
陣内
フランス女性は「引き」で、日本女性は「寄り」で考えがちと、松本さんはおっしゃっていますよね。
松本さん
かといって、ディテールはどうでもいいかというと違って、毎日モノを雑に扱っている人が、その日は人前に出るからきれいに扱えるかというと難しい。そういう意味でのディテールの積み重ねはあると思うんですね。一方で、多少のシワを気にしないで笑っている女性はもっと魅力的です。あぁ、きちんとケアをしているからこそ思いっきり笑えるのだろうな、きっとこの人は笑っている時間の長い人なのだろうなと想像できる。
陣内
ほう、なるほど。その人の暮らしや生きる姿勢まで見えてしまう……。松本さんは、美のプロファイラーとも言われていますが、ふだんの人との関わりの中で、どうやっていろいろ気づくことができるのでしょう。
松本さん
実は私、ずっとコンプレックスの塊で、他の人のいいところがうらやましくて仕方ない。自分と比較しては、落ち込んで生きてきたんです。
陣内
とても信じられないけれど……。
松本さん
以前、すべてに憧れている年上の女性がいて、持っているブランドものの時計からマネして、大失敗した経験があるんです。でも、それって、見方を変えれば、人のよいところを発見できているってこと、とあるとき気づいた。学んで、分析すればいい。いい意味での観察力なのかな、と思えるようになったんです。それが、私が大人になった瞬間(笑)。まあ、その分析は半分妄想だったりするのですが、考えるプロセスの中でさまざまな気づきがあるんです。
陣内
他人を客観的に見ることは容易かもしれませんが、自分のことも客観的に見ている。それが松本さんのすごいところだと思いますね。
松本さん
自分の姿を見るにしても、小さい鏡だけだと見えるものも見えません。大きな鏡があるんですが、必ず見ますね。たとえば……ふだんはつけないのですが、たまに赤いリップをつけたいときがあります。すると小さな鏡の中では悪くなかったのに、引いて見ると、あ、アクセサリーをはずそうとか、髪を巻くのはやめようとか、全体を見ることができる。

美しさって、広い

陣内
松本さんのご本では、「きれい」でも「キレイ」でもなく、「綺麗」と漢字を使っています。何か理由があるのですか?
松本さん
字そのものもきれいですよね。それと、漢字って、私たちに与えられている美しい文化。一つひとつの字にも意味がある。それを伝えていきたいという思いもあって、手紙を書くときや大事なことを伝えたいときにはできるだけ漢字を使っているんです。
陣内
綺の字は、糸へんがつくかつかないかで意味が違ってきますね。麗の字も、麗しいと読む、その音の響きもとても美しいです。意味合いが深いですね。
松本さん
ある時「美しさ」をテーマに女性たちで話していたんですが、一人の男性が「『美しい』という言葉を、女性は広く使いすぎる」と言ったんです。素敵な人のことを美しいと呼ぶし、話す言葉を美しいと呼ぶし、魅力的=美しいと言っている。でも、男はそうは思っていないよ、と。はい、その場にいた女性たちが彼をコテンパンにしていました(笑)。
陣内
その男性にとっては、顔の造作だけが美しさの対象になっているということですね。う~ん、私も男ですが、全くそう思いませんね。きれいとか美しいとかには、もっといろいろな意味が込められていると思うのですが。
松本さん
そうです。誰かのために何かをしている人の行動にも「美しい」と表現することもありますし、男性に対しても「美しい」という言葉を使うこともあります。
陣内
一方で、(自分の)見た目にこだわる男性も増えてきていると言われていますが、どう思いますか。
松本さん
自分自身がどう見えるかを意識して生きることは、男性にも必要だと思いますね。人は一人で生きているわけではありません。この人は、周りの人に全然気を遣ってないなとか、この人は気を遣える人だから、人間関係もいいだろうと想像する。「見た目」はそういうことでもあると思うんですね。
陣内
背景を物語る。まさにプロファイリングですね。男女で比較すると、男性はどこでも自分の気分をそのまま持ち出すことが多いですね。とくに、年をとるほど、そうなる傾向がある。でも、女性は、いくら気分がよくなくても、ここではハッピーな振る舞いをしようと切り替えられる。ちゃんとソーシャルな態度をとろうとしますね。その訓練ができているのは女性のほうです。
松本さん
関係性に目を向ける男性は、たしかに少ないかもしれませんね。
陣内
身だしなみだったり、ちょっと口角を上げたり、そうしたノンバーバルなコミュニケーションも、広い意味では男女を問わず、その人の「きれい」とか「魅力」につながっていくのかもしれませんね。

理想のエイジングとは

松本さん
去年、「アンチ・アンチエイジング」ブームがありました。若さにしがみついたり、すがったりすることは自分を否定することになるのではないかというのがアンチ・アンチエイジングの考えです。その違和感は当時の私にもあって、原稿にも書いたりしたのですが、今は、アンチエイジングにしろ、アンチ・アンチエイジングにしろ、どちらも極端だなと思っていて。
陣内
ありのままでいいのではないか、ということですか?
松本さん
ありのままとは、ほったらかしとは違う。でも、抗うのも違う。どういうことだろうと思っていたときに、ある女優さんと話をすることがあったんです。彼女の婚家には、古いお道具がたくさんあって、毎日丁寧に使ってお手入れをすると、そのお道具がどんどんよくなっていくのがわかると言うんです。時間軸で言うと、古くはなっているのだけれど、味わいが増していく……。肌をケアすることもそういうことかもしれないね、って2人で話をしたことがあったんです。
陣内
ただ若さを求めるのではなく、時を経てますます魅力的になる。理想的な生き方ですね。
松本さん
肌そのもの、つまり素材は皆それぞれ。自分の素材を丁寧に活かすことができるのがいいんじゃないかな、というところに私は今、おさまっているんですね。
陣内
エイジングサインの、そこだけを治しちゃおうという考えも確かにありますよね。でも、悩みをなくせばいいかというと違うと思うんです。ちょっと経営者の視点でのお話になって恐縮ですが、「顧客満足」の反対は何かという話で、たとえば「不満足」をリストアップして、一つひとつ消していってゼロにしたら「満足」するかというと、そうではないんです。自分が美しくないところをゼロにすれば、美しさにたどりつくかというと絶対違いますよね。たどりついた結果ではなくて、努力を続ける中で醸し出される何か、ケアをしていくことで現れる何か、それがその人の魅力になるような気がします。
松本さん
大好きなテーブルにシミができたら、とる努力はしたい。けれど、漂白剤をつかったり削ったりして素材を傷めてまでとりたいと思わない。コントラストを薄めて、ツヤを出して味わいにしようと思う。私は、そんなふうに生きて行ければ幸せかな。「シミのない肌大会」で優勝したいわけではないので(笑)。
陣内
松本さんは、日々の暮らしの中で、チューニング=調律をすることが大事とおっしゃっていますね。
松本さん
はい、毎日思っています。肌も、体調も、気分も。いつの頃からか、毎日自分が変わることに気づいたんですね。顔も、顔色も違う。背の高さも違って見えるし、髪の色や長さも。全部違う自分のように感じるんです。昔、小さかったころは、昨日まで履いていた靴が、今日履けなくなっていたのと真逆です。昨日までできていたことが、できなくなる。
陣内
わかります。下降の変化を感じると、気持ちがへこみますね。
松本さん
なので、毎日をちょっとだけ心地いい感じに作るというように発想を変えたんです。たとえば保湿ケア。乾燥することを嘆くよりも、一生懸命に保湿する。すると、顔色が確実に明るくなります。私にとっては、もう保湿はメイクそのもの。同じ黒い服でも、少し上質なツヤ素材に変えてみたらよかったとか。つらいと思わずに、チューニング! 毎日違う自分に出会えるようで、結構楽しいですよ。
陣内
私も、年をとったらよりよくなれる、そう思っているんです。そこへ向かってチューニングしていくことはできる。たとえばフィジカルなことでも、今私は、10年前より体がやわらかくなっている。変えていけるんですね。

毎日のリセット

陣内
お客様からのお便りなどを読むと、やはり年齢を重ねるとともに物理的な変化はあって、たるんできたり、目元が下がってきたり。鏡を見るたびに、さびしくつらい思いをしてきたと。スキンケアをすることで前向きになれたからお便りをくれるのだと思うのですが、より時間の経過を味方にする方法はないでしょうか。
松本さん
自分の面倒を見るとでも言えばいいでしょうか。今日の自分をリセットしてあげて、明日の準備をしていく。下がってきたなと思ったら上がれと思ったり、シワができたなと思ったら、こう手を肌に当ててアイロンをかけるようにしたり。微調整をして、今日を明日に持ち越さないことも大事ですね。
陣内
V字復活はムリだとしても。
松本さん
落ちる曲線はゆるくできる。
陣内
そのお手伝いを、私たちは化粧品でしたいのです。60年、三省製薬として開発してきた成分、製剤、パッケージ、使用感、そして、お使いになる女性の気持ちに寄り添っていきたいと思っているんです。
松本さん
化粧品がなかったら、私たち、どんなに不安でしょう! 化粧品って、ただ肌をケアするものではないんですよね。シミが(ほほの)ここにあって、自分がすごく気になっていたら、心から笑うことはできない。相手の目を見て話せないと思うんですね。表情と肌はつながっていて、それを何とかしようとしたら、美容に答えがあるし、頼りにしてほしい。陣内さんのお話を聞いても、すべてが進化していますよね?
陣内
肌はいくつになっても育つものなので、お手入れに遅いということはありません。そのために私たちは、「最新のものが最高のもの」になるように作っています。
松本さん
どんどん進化している化粧品を使うとき、試していただきたいのは、自分の手で肌をたしかめるように使うこと。私は、体を洗うときもボディクリームを使うときも、背中から爪先まで全部自分の手で行うようにしているんですね。柔軟運動も兼ねて。毎日ふれていると、ざらつきがあるなとか、ゆるみが出てきたなとかわかります。
陣内
それが、きちんとしようという気持ちにつながるんですね。松本さんは、今日は疲れたからお手入れしないで寝ちゃおうかな、なんていうことはないですか。
松本さん
あります、あります(笑)。でも、半分寝ながらでも、「したつもり」になります。最近、スクワットを始めたんですね、寝る前に15回を3セット。もう眠いときとかは、5秒で15回(!)みたいなスピードでしてしまうんです。それで寝る。本当は意味がないかもしれないけど、今日もやったね、という満足感を得て思って眠ります。翌日はきちんとやって、つじつまを合わせていますね。
陣内
ルーティンがちゃんとできる日は少しは誇らしい気持ちになれます。今日は、たくさんのヒントをいただきました。ありがとうございました。